研究概要 |
本研究は平成9年度から3年計画で実施する予定で,今年はその初年度にあたる.本年度の調査研究は研究組織全員が参加して,平成9年10月14日-平成9年11月22日までの40日間にわたってハワイ諸島のカウアイ島,モロカイ島,オアフ島で実施された.三島は北東の季節風の影響を強く受けて,北側斜面では雨量が多く逆に南斜面は非常に乾燥している.今年度の現地調査は,標高900m以上のMeterosiderosを優占種とする常緑自然林,400-800m付近のアカシア,ユ-カリ属を主とする二次林,低地のマメ科植物を主とする雑木林,海岸の溶岩植生などを中心に行なわれた.900m付近から上部にの自然林では,樹幹や林床には多様な蘚苔類,シダ類が見られた.特こ脊梁山地に形成される雲霧林には苔類が優占する群落が確認された.ハワイ諸島の蘚苔類相の研究はいまだ十分にはなされていないが,今回の調査期間は生殖器官を形成する時期に当たり,分類学的研究を行うために適した標本が多数採集され同島に生育する蘚苔類の分類系統学的研究を行う上で貴重な資料が得られた.シダ類に関してはハワイ固有属であるSadleria(シシガシラ科)やオオシケシダ属の新種と思われるものが発見された.これらは,川の最上流部に形式される滝を伴った急斜面の渓谷で見つかったが,このような場所は種の地域的隔離作用が強く働くと考えられる.地衣類は海岸岩上から脊梁山脈上部まではば広く分布することが確認されたが,高度や植生によって生育している種類は著しく異なっている.特に海岸の溶岩台地や尾根部の露岩上では,カラタチゴケ属の種分化が著しいことが確認された.また,分類群によって種分化の程度に著しい偏りがあることが確認された.ハワイ諸島新産属としてMyelochroa(ウメノキゴケ科)とNiebla(カラタチゴケ科)が確認された. 本調査で採集した資料は蘚苔類1500点,地衣類1200点,シダ類400点である.これらは平成10年1月に科博に到着し,目下標本の整理作業と分類学的研究が進められている.蘚類,シダ類に関しては生の資料が持ち帰られ,分子系統学的な分析を継続中である.
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