研究概要 |
本研究は平成9年度から3年計画で実施され,今年はその最終年度にあたる.本年度の調査研究は研究組織全員が参加して,平成10年5月24日-6月25日までの33日間(柏谷,樋口,スミス;古木は31日間),5月29日-6月6日までの9日間(加藤)にわたってハワイ諸島のハワイ島とラナイ島で実施された.今年度の現地調査は,標高2800m以上の乾燥溶岩原,900m以上のMeterosiderosを優占種とする常緑自然林,高層湿原,400-800m付近のアカシア,ユーカリ属を主とする二次林,他地のマメ科植物を主とする二次林,海岸の溶岩植生などを中心に行なわれた.本調査で得られた資料は,地衣類約800点,蘇苔類約600点,シダ類約70点,海草類約50点である.これらの資料は全て日本に到着し,乾燥標本(一部液浸標本)として保管され平成9年度,10年度で得られた資料と共に分類学的検討を行っている。これまでに得られた結果では,維管束植物やシダ類の固有率が70%を越えるのとは対照的に,ハワイ諸島に生息する隠花植物の固有率は一般に低く,かつまた,分類群によって著しく異なっていることがわかった。例えば,地衣類のうち樹枝状地衣類のカラタチゴケ属の固有率は11.5%,マツゲゴケ属では27.9%,Nieblaでは100%と属によって大きな差があることが確認された。また,蘇苔類の固有率は約50%であった。シダ類では,カウアイ島の滝の水しぶきをかぶるコケの間に生えているオオシケシダ属の1種が形態比較と分子系統解析の結果から新種であることが確認された。苔類についてはケゼニゴケに形態的にも遺伝的にも2型があって住み分けていることが明らかになった。その他の分類群については,形態,構造,二次代謝産物,染色体,酵素多系,塩基配列などの特徴を加味した分類学的研究を継続中である。
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