研究概要 |
本年も昨年に続き,医学上重要な菌類のその自然界における生態と,マイコトキシン等の真菌代謝産物の生産菌の分布調査を行い,同時にそれらの生態関係を遺伝子レベルで解析することを課題とした。臨床分離菌の具体的な対象としては,ブラジルを含む世界的に分布が多く,同定が困難な菌としての観点から,皮膚糸状菌ならびに黒色真菌症の起因菌を選び,またそれとは逆にブラジル特有の菌としての観点から,上記パラコクシジオイデス症の起因菌で自然界からの分離が困難とされるParacoccidioides brasiliensis焦点を当てた。皮膚糸状菌については欧州,南北アメリカに多く,未だアジアでは例の少ないTrichophyton tonsuransについて遺伝子を対象とした同定法を見出し,さらに世界的にみても本菌種は変異が少ないことを見出した。黒色真菌類ではその三大原因菌であるFonsecaea pedrosol,Cladophialophora carrioni,Phialophora verrucosaついて,ブラジルを含む南米諸国,日本,中国などのアジア諸国で分離された菌類についてRAPD法による核酸の多型解析を行い,各菌株が地域特性をもって分布することをみいだした。P.brasiliennsisについても,ブラジル分離株の遺伝子多型性を明らかにした。一方,自然界からの分離菌を対象とした研究では,病原真菌ならびにマイコトキシン等の生産菌が多数含まれるAspergillus属に注目した。本属菌については同定が困難なグループも多く,確かな同定法の確立が必要なことから,今回は特に病原性菌として今日重要な菌種であるAspergillus fumigatusとその類縁菌についてミトコンドリアのチトクロームbの遺伝子に着眼した新たな同定法を発表し,同時にそれら菌類の系統関係についても新たな知見を得た。
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