研究課題
Ho Bow,Fock Kwong Ming等との共同研究によりシンガポールでは、中国系・インド系の人種グループには80〜90%の高いH.pylori感染者が存在するのに対して、マレー系のグループには40%の低い感染率であることが判明した。これは、国土面積から考えて、感染菌の多様性を反映するというよりも、食生活、居住環境を含めた広義の感染宿主側の因子に原因がると推測された。一方、Martin Blaserは我々のもとに来日し、病原性の強い菌と弱い菌のあいだに遺伝子型に上で特徴的な差があることを強調した。我々は、感染患者約百名から感染組織を得て、組織に浸潤するリンパ球の形質とその機能を観察した。その結果感染者の組織中にはIFN-gammaを大量に産生するようなT細胞が最も多く浸潤していることが判明した。また同一の患者群からH.pylori特異的は血清抗体のアイソタイプを検討した結果、IgG2型の抗体価の著明な上昇を感染者群で認めた。これらのことはいずれも感染者宿主の胃粘膜ではTh1型の免疫応答が生じていることを示唆するものであった。一方、H.pyloriにゲノム遺伝子ライブラリーより患者血清と家兎抗体を用いて、幾つかの抗原遺伝子をクローニングしそのうち、MAP-1蛋白は約19Kdの二量体型の膜蛋白であり、その組み替え体は単球を活性化するものであることが判明した。即ち感染胃粘膜では組織中の単球由来のサイトカインにより、B細胞のIgG2への分化とT細胞への分化誘導が存在することが示唆された。これらの知見をもとに、感染患者で組織でのH.pyloriに対する免疫応答が異なるのか引き続き国際的な研究を継続する。全世界で約20億人が感染していると考えられるH.pylori感染症に対して、宿主の免疫応答を利用した新しい治療法の開発につながる知見が得られるものと考えられる。
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