西ケニアにおける現地調査で組織学的に確診できた340例のカポシ肉腫をもとに、その免疫学的および病態的な推移を解析した。同地域にAIDSが蔓延し始めたと推定される時期は1980年代半ばであり、調査結果を1985年以前と以後に分けて分析し、1.ヴィクトリア湖周辺やウガンダに隣接した高温で湿潤な地域、およびその地域に住む農耕民族に多く見られたカポシ肉腫が西ケニア北部や中央部の乾燥地帯や冷涼な熱帯高地、およびその地域に住む民族間に広がった。2.男女比は9:1から6:1となり、女性における件数および頻度が急増した。3.幼児期(5才前後)と中高年期(50才代)に見られ、二峰性を示した好発年齢に青年期(20才代)が加わり、三峰性となった。4.患者の平均年齢が40才から36才へと若年化した。5.全悪性腫瘍に占めるカポシ肉腫の頻度は2.6%から3.8%へと上昇し、とくに近年では10%以上へと急増した。6.初発部位は、乳幼児ではリンパ節、成人では足、下肢の皮膚に結節性病変として見られることが多かったが、成人でもリンパ節浸潤をともなう例、あるいはAIDS勃発以前にはほとんど見られなかった体幹部に原発する例などが増加した。また、全身撒布性の丘疹状病変を示し、病態的に欧米のAIDS患者に合併したカポシ肉腫に類似した激症型が増加した。これらの結果より、西ケニアにおいては、従来のHIV感染とは関連性を持たないアフリカ地方病型カポシ肉腫に加えて、1980年代後半よりAIDSに合併したAIDS流行病型カポシ肉腫が急増し、西ケニア地域のカポシ肉腫の多くを占める傾向に移行しつつあるということが明らかになった。本研究の過程において予備的におこなった研究で、現地のホジキン病から高率にエプスタインバー・ウィルスの癌遺伝子が確認され、熱帯地における多くの悪性腫瘍には発癌ウィルスの関与が示唆された。これらは今後明らかにすべき研究課題と考えられる。
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