フィリピン共和国パラワン島における民族植物学調査として次の地区において調査研究を挙行した。 1.セントポール地底川国立公園クレオパトラ山周辺 本地区はパラワン島原住部族の一つであるタグバヌア族が住み、ここに生育する植物資源を様々に利用している。植物相調査は現地住民の案内で、熱帯裸子植物の一種Agathis sp.が生育する山岳地帯から南シナ海に面する海岸林まで行われ、同時に有用植物情報の収集も行った。この地区は徒歩でのみアクセスが可能であるため、バブヤン川沿いの熱帯雨林中にベースキャンプを設営した。 2.ウルガン湾周辺 ウルガン湾周辺山地はパラワン島の他の低地熱帯林とは著しく植生が異なるので、植物学調査の重点地区として選んだ。ここでは、東南アジア熱帯林に普通なフタバガキ科、アカテツ科樹種を欠くばかりでなく、、樹高も普通の低地熱帯林より著しく低い(最高でもせいぜい15メートル)。これはクロムなど重金属を多く含む土壌によるものとされ興味深い。 3.アボラン周辺 アボラン周辺に住むタグバヌア族部落において伝承医療従事者よりpagdiwataと称する伝承医療の実態を明らかにすべく聞き取り調査を行ったが、十分な薬用植物情報を得るまでに至らなかった。しかし、この後背地に位置する熱帯雨林の植物相調査により潜在的な薬用資源の発掘が期待される。 4.サンラファエルバタック族部落 バタック族はパラワン島中部の原住部族であり、山岳地帯において狩猟を営む。ここでは伝承医療従事者より薬用植物情報を収集、フィールドにおいて各種植物標本、化学研究用試料を採集した。 採集した植物試料の同定及びその化学的生物学的スクリーニングは現在進行中である。なお、フィリピン各地市場で多くの生薬を購入し、これについても現在検討中である。
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