平成9年度 フィリピン共和国パラワン州パラワン本島の各所において民族植物学調査研究を挙行した。 1、 セントポール地底川国立公園内クレオパトラ山周辺地域における調査 クレオパトラ山域はパラワン島の原住部族の一つであるタグバヌア族が居住しており、豊富な自生植物を多様に利用してきた。本国立公園においては熱帯産裸子植物であるナギモドキ属の生育する深山地から南シナ海に面した海岸までタグバヌア族長老の案内で植物相調査を行い、植物の利用に関する情報収集を行った。本調査の遂行においては徒歩以外にアクセスの手段がないため、バブヤン川沿いの熱帯雨林内に野営を設定した。 2、 ウルガン湾周辺地域 ウルガン湾周辺の森林はパラワン島の他の熱帯雨林とは全く異なる植生を示すので、本地域も調査研究の対象とした。この地域の森林は東南アジア熱帯雨林に普通なフタバガキ科、アカテツ科樹種を欠いているだけではなく、樹高がせいぜい12メートルと低いことを特徴としている。かかる植物相及び植生の特徴はクロムなどの重金属を多く含む土壌によるものと考えられる。 3、 アボラン及びその周辺地域 本調査隊はアボランのタグバヌア族において伝承されるパグディワタという民間医療の実態を明らかにすべく当事者に対して聞き取り調査を行ったが、限られた情報収集にとどまった。そこで伝承医療の発展に対して後背地の植物相が果たしてきた役割を明らかにするため、タグバヌア族集落周辺の植物相調査を行った。また、近傍のイラワン、イワヒグ地区においても調査を行った。 収集植物のうち多くは同定することができたが、まだ未同定のものもかなり残されている。 平成10年度 1、 報告書の編纂 前年度に得られた研究成果はフィリピン側研究分担者を含めた調査研究参加者の緊密な連携のもとで編纂され、パラワン島固有の伝承医療の実態、調査地域の植物相と植生の概要、採集植物リスト、及び植物相の観点から興味ある植物の写真リストなどを含む報告書を作成した。 2、 フィリピン側研究分担者の招聘 前述の研究成果を円滑に編纂するため、2名のフィリピン側研究分担者を招聘した。
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