研究課題
われわれはアジア人の同胞と考えられている南米先住民族、およびアンデス地域に眠り続けてきた自然ミイラを対象とした民族疫学的研究を過去3年間続けていくことにより、ウイルス学的、人類遺伝学的、考古学的に重要な新知見を得ることができた。第一に、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)流行分布から中南米の先住民族は二群に大別される。つまり、北部のカリブ海地域、オリノコ川流域、アマゾン流域、南部パタゴニア地域などに幅広く定着している先住民族は2型を保有しているが、アンデス先住民族は日本人と同じ1型を保有していた。第二に、動物の免疫監視機構に重要な役割を果たしているリンパ球抗原(HLA)DR-DQ遺伝子の塩基配列によるハプロタイプの類似性解析から、アンデス先住民族の中には九州西南部に分布する日本人と全く同型のものが多く分布するが、他全域の先住民族(上記のHTLVの2型を保有)では類似型はほとんど検出されない。このような知見から、アンデス先住民族が日本列島に定着したアジアの先住民族と人類遺伝学的に近縁関係にあるという仮説が立証できた。さらに、今年度はアンデス地域に眠り続けてきた自然ミイラ(130体)の人類遺伝学的解析により、チリ北部アタカマ高原のミイラ(約千年前のティワナク)からHLA-DG遺伝子、およびHTLVの1型プロウイルス遺伝子(pX領域158bp)の抽出に成功した。また、ミトコンドリア遺伝子の塩基配列からは現存する先住民族とミイラが類似した分布様式を示すことも明らかになった。これらの知見は、日本とアンデス先住民族、また現存する先住民族と新大陸発見以前に居住していた先住民族を科学的に結びつける知見として、医学的のみならず人類遺伝学的、考古学的の極めて重要な発見といえる。
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