本研究の目的は、南米、北米、ユーラシア大陸の中で信頼に足る胃癌の罹患率または死亡率が得られている地域を中心に対象国を選び、EBウイルス関連胃癌の疫学的、病理学的、ウイルス学的特徴を明らかにしようとするものである。研究期間に調査・収集された胃がん症例は、コロンビア179例、メキシコ135例、チリ185例、ブラジル(日系人)149例、中国265例、マレーシア86例、インド115例、ロシア522例、ウズベキスタン172例である。すべての症例についてin situ hybridizationによるがん細胞中のEpstein-Barr virus encoded small RNA(EBER)の同定を行い、その陽性率と性、年齢、がんの発生部位、診断年、地域などの因子との関係について検討を行った。女性よりも男性の胃癌症例においてEBウイルス陽性胃癌の占める割合が大きく、年齢と共にEBウイルス陽性胃癌のリスクが低くなる傾向を認めた。胃癌の発生部位別にEBウイルス陽性胃癌の分布を比較すると、日本、コロンビアの男性、メキシコの女性などいくつかの例外はあるものの、多くの地域ではEBウイルス陽性胃癌の占める割合が最も高い部位は噴門部であり、続いて胃体部、幽門部の順であった。またEBウイルス陽性胃癌のリスクと診断年との間に有意な関係は認めなかった。性、年齢とがんの発生部位で補正を行った上でEBウイルス陽性率の地域差を検討したところ有意差を認め、日本を含むアジア地域やブラジル(日系人)よりもロシアや南米地域においてEBウイルス陽性率が高いことが示唆された。
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