社会生物学(行動生態学)の理論がさまざまな国でどのように受け入れられてきたかについて、引きつづき各国の共同研究員と連絡を取りつつ、聞き込み調査と文献調査によるデータ収集をすすめた。今年度はとくにアメリカとオランダ、韓国、中国の事情について集中的に協議をかさね、日本の状況との比較検討を試みた。また、ラテンアメリカ諸国の事例について、予備的な聞き取り調査をおこなった。その結果、当初はダーウィン進化理論そのものへの反感、とくに人間について社会生物学的に説明する試み強い反感が存在していたという共通点と、社会生物学が導入された時点での進化生物学を始めとする生物学関係のインフラの成熟度が受容に影響するなど、いくつかの相違点が明らかになった。また、人類学と生態学、政治学、哲学などの人文系諸学における社会生物学の影響についても、一定の知見を積み重ねることができた。人類学は生物学的なアプローチと社会科学的なアプローチが混在するフィールドであり、社会生物学は前者の陣営に属する。社会生物学や進化理論の影響という点を別にしても、自然科学と社会系諸科学の交錯するところとして注目される。人類学の一分野である霊長類学の方法論と哲学に関する日米比較からも、理論と事実の不可分性や中心/周縁理論を支持する事例が収集できた。 今年度は最終年度であり、各研究員の成果を何らかの形で交換する場を設ける予定だったが、それは来年度にもちこされた。7月にワシントンDCで開催されるアメリカ生物政治学会(APLS)で、社会生物学受容のシンポジウムを、本プロジェクトの研究分担者であるヴィンセント・ファルヘル博士(ユトレヒト大学)と共同で開催する予定である。
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