研究課題
昨年度の調査研究から得られた三つの観点を深めることを目的として今年度の調査を行った。第一の観点は、日仏政策のちがいはどこに起因しているのかを把握すべきだという認識である。それが国家主導であるか否かが最も大きなちがいといえるが、これに加えて、「文化」「自然」認識が日仏の間で異なるのではないかという推論に基づいて、今年度は治岸部の環境保全について調査を行った。自然環境をどのようなかたちで、「文化財化」しているのかを両国において比較したのである。第二の観点は、戦争、産業(公害、環境問題、事故)遺産のようないわゆる「負の遺産」調査を通じて、いかなる範囲まで保存の対象が広がっているのかを考えるというものである。この点に関しては、今年度の研究において最も中心的テーマとして、日本、フランス、ドイツで調査を行った。遺産として残っているモノの分析だけでなく、当事者(戦争等の体験者)の記憶の問題も研究対象とし、当事者の語りと「沈黙」(語ろうとした人々の存在)について考察した。第三の観点は、現代都市における文化保存のあり方である。この点については、主にベルリンの都市計画を調査することで、まさに「未来」を遺産化しようとする現代都市のあり方について考えた。来年度は最終年度であるため、以上の観点に基づいて研究をまとめ、報告書を作成する予定である。なお、当初予定していたポルトガル調査は中止した。
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