研究課題
ガラス、高分子、ゲル凝集体等のアモルファス物質の多くは、フラクタル構造モデルで記述できる。このような複雑系の動的性質、特に非平衡・非線形現象に対する関心は最近非常に高まっているが未だに微視的な系統一的理解は得られていない。現象の完全な解明には、理論・実験・シミュレーシンの相互協力と計画的な研究遂行が不可欠である。本研究では、我々のグループが蓄積してきたフラクトン・ダイナミクスに対するこれまでの知見をもとに、アモルファス物質の非平衡・非線形現象を系統的に理解する所期の目的を達成した。特に、高振動数局在振動の非線形ホッピングによる熱伝導や非調和崩壊のメカニズムが解明された。この国際学術研究補助金のおかげで、理論・実験・コンピュータシミュレーションの3つの方向から問題にアプローチする事が可能になり、これらの間の相互協力とフィードバックによって非線形ランダム・フラクタル系のダイナミクスに関する多角的かつ系統的な研究を行うことができた。実験面に関する発展としては、ラマン法による非調和寿命の測定や熱パルス伝播による非平衡フォノン実験の方法も確立されてきた。本研究では上記の3つのアプローチによって、非線形ランダム・ネットワークにおける振動励起状態の非調和寿命及び熱伝導現象におけるホッピング伝導の寄与に関して、その振る舞いを定量的に明らかにし国内学会、国際会議、また論文として発表した。特に国際会議では我々の共同研究の結果について特別講演を行った。具体的には振動モードの非調和崩壊過程における、各モードへのエネルギー分配に時間発展の様子を、大規模シミュレーションによって数値的に求めた。得られた非調和寿命をもとに、熱伝導度など非線形ホッピングに起因する様々な物理量を計算して、実験結果と比較した。アモルファス物質の非平衡物性を局在振動の非線形ホッピングの立場から統一的に理解し、ガラス、高分子、ゲル凝集体などの一般的な不規則構造体の非平衡・非線形物性を統一的に理解することができ、大きな研究発展がなされたと考えられる。
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