研究概要 |
本研究は,電気化学的に発生させたルテニウム三核錯体の架橋二量体の一電子還元体(骨格間混合原子価状態)について,電気化学的手法,赤外分光法,近赤外分光法などの研究手段を用いて,米国Purdue大学のKubiak教授グループと共同研究を行うことを目的とする.カルボニルを含む{Ru_3(O)(CH_3COO)_6(L)_2}(Lはピリジン誘導体)をユニットとする対称的なポテンシャル面をもつ架橋二量体について以下の成果が得られた. (1)本研究の最も大きな成果は.π電子を伝え易いピラジンを架橋配位子として用いた系の混合原子価状態がCO伸縮揺動スペクトルのコアレッセンス現象を示すことを見出したことである.これが分子内高速電子移動に基づく現象であることをさまざまな実験から明らかにし,また,吸収帯の線形解析から,電子移動速度が速いL=4-ジメチルアミノピリジンの系ではその速度定数が9x10^<11>s^<-1>であることを決定した. 分子の動的化学過程に基づく電磁波吸収スペクトルのコアレッセンス現象は,NMRでよく知られているが,タイムスケールが10^<8->〜10^9倍も速い赤外スペクトル領域で観測されたのは本研究が世界で初めてである. (2)分子内電子移動の速度はターミナル配位子の種類に依存し,電子供与性が高いほど速度が速いことが解った. (3)電気化学で観測される酸化還元波の分裂幅から,混合原子価状態の均化定数を決定した. (4)混合原子価状態が近赤外領域に示すIntervalence Bandを測定し,その形状からユニット間相互作用の大きさを表すパラメーターH_<AB>を決定した. これらの成果を,科学的に極めて高度な内容の論文のみを掲載する評価の高い学術誌,“Science"に公表した.
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