本研究では、角度分解のポンプ-プローブ光電子分光の全過程ab initio量子計算を、世界に先駆けて始めて行った。分子の電子状態の計算、光イオン化過程の量子散乱計算をカルフォルニア工科大のグループが担当し、振動波束を記述するための運動方程式の構築と実際の計算を、我々東大のグループが行った。最初の例として、従来ヨーロッパを中心に行われてきた時間分解光電子分光のモデル計算でしばしばとりあげられてきた、ナトリウム分子を選んで従来の結果と比較した。その結果、従来の結果とは著しく異なる、新しい現象を発見することができ、我々の理論計算の有用性が検証された。(その第1報は速報誌に印刷中である。)角度・エネルギー・時間分解の光電子分光は、極めて高い汎用性と、豊かな情報量をもつので、分子の超高速過程動力学の研究に多用されることになろう。我々の理論計算は、その先鞭をつけるものである。また、この分光法は、分子の電子状態の非断熱遷移を調べるのに極めて特徴的な傾向を示すことも明らかになった。このように、普遍的な実験方法の一つである光電子分光法は、エネルギー領域から時間領域へのそれと大きな変ぼうをとげつつあり、我々は、その大きな扉を開けた。本国際共同研究は形式的にはこれで終了するが、実験グループともまとまって、今後さらに発展させていく予定である。
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