研究概要 |
本共同研究では、蛋白質ウシ脾臓トリブシンインヒビターBPTIを主たる対象に、神戸大学で開発されたオンライン超高分解能高圧NMR装置(750MHz)を用い、1〜2000barの任意の圧力下で、加圧による蛋白質の構造及びダイナミクスの変化について初めて原子レベルの分解能で研究した。通常のBPTI試料はシグマ社製から購入し、15N標識BPTI試料はC.Woodward教授(ミネソタ大学)が作成、また13C標識BPTIはG.Montelione教授(Rutgers大学)から提供していただいた。その成果は以下の通りまとめられる。なお以下の実験の成功に鑑み、多大の時間を要する重水素交換反応に対する圧力効果の測定は中断した。 1. 軽水中のプロトン二次元NMR測定及び15N/1H二次元NMR測定で、主鎖アミドの1H,15Nの信号がともに圧力に対して強い低磁場シフト(それぞれ平均0.075ppm/2kbar,0.47ppm/2kbar)を示すことから、加圧による主鎖アミドの水素結合距離の短縮が明かとなった。 2. 15N信号の圧力シフトはアミノ酸毎に顕著なバリエーション(0〜1.5ppm/2kbar)を示すことから、加圧により二面角φとΨも変化すると考えられる。特にヘリックスとループがβ-シートに比べその変化が大きいことが明かとなった。 3. プロトン核オーバーハウザー(NOE)の測定から、加圧によるBPTIの三次構造変化を測定し、特に酵素との結合セグメントが圧縮され易いことが明かとなった。 4. 15Nスピン緩和の測定から、加圧による主鎖のnsec〜psec程度の速い内部運動の変化について研究したところ、部位により若干の変化が認められ、詳細を解析中である。 5. ミリ秒程度の時間域での遅い運動については、プロトンNMRスペクトルから、加圧により一部のTyr,Pheの環回転が遅くなることが判明し、その原因が残基間距離の短縮によることが明かとなった 6. 13C信号の化学シフトの加圧に伴うシフトの測定に成功し、結果を解析中である。
|