研究概要 |
キラルルテニウム(II)錯体、Δ-[Ru(menbpy)_3]^<2+> (menbpy=4.4'-bis{(1R,2S,5R)-(-)menthoxycarbony1}-2,2'-bipyridine)の励起状態の[Co(acac)_3]による消光反応を行い、立体選択性を検討したところ、選択性はほとんど見られなかった。これは、定常光還元反応における高い立体選択性と対照的であった。一方、パルスラジオリシスによりΔ-[Ru(menbpy)_3]^<2+>の1電子還元体を生成させて[Co(acac)_3]との反応を行ったところ、立体選択性は1.27であった。これは電子移動反応が立体選択的に行われることを示している。従って、[Co(acac)_3]による消光反応に選択性が見られないのはエネルギー移動によるものであり、エネルギー移動は立体選択的に起こらない結論出来た。エネルギー移動はForster機構でなくDexter機構で進行することが理論解析から示唆された。キラル銅(I)錯体[Cu(dmdcbpy)(PPH_3)_2]+ (tmdcbpy=4,4',6,6' -tetramethy1- 5,5' -bis(S)-(-)-1-pheny1- carbamoy1)-2,2' -bipyridine)による[Co(edta)]-の光還元を行ったところ、低温では非常に立体選択性が高くなることが明らかとなった。エナンチオマー過剰率は70%に達した(転化率10%時)。消光反応から、静的消光機構で進行していることが染まされた。エンタルピー変化にはΔ-[Co(edta)]^-,Λ-[Co(edta)]^-の差がほとんど見られず、この高い選択性の出現過程は未だ明らかでないが、この選択性はこれまで最高値に近いものである。金属錯体間の電子移動に関する理論的検討の第一歩として、[(H_3N)_5Ru(NC)O_S(CN)_5]-のDFT及びab initioMO計算を行った。基底電子配置はRu(III)-Os(II)と言われているが、計算結果はこれと異なり、Ru(II)-Os(III)であった。電場をかけると、この電子配置Ru(III)-Os(II)に変化した。これらの結果は、電子移動が溶媒及び共存イオンに影響されること、電場により新しい電子配置が出現できることを示すものである。立体選択的光化学反応と直接関連は無いが、金属錯体の機能化の面から興味深く、新しい錯体化学への展開が期待できる。
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