近年、ヒトゲノムをはじめ多くの遺伝子配列が幾何級数的に日々明らかにされている。しかし、その膨大な遺伝子配列から蛋白質の機能構造を推定することはほとんど不可能である。あるアミノ酸に適合する既知の立体構造を探して未知蛋白質の立体構造を予測するいわゆる3D-1D法が有力視されている。しかしながら、その予測法に用いられている評価関数は経験的なもので精度の高いものではない。それは、蛋白質の個々のアミノ酸残基が立体構造上の特性との関連で、蛋白質の立体構造の安定性にどのように寄与しているか定量的に明らかにされていないことに原因している。本研究計画では、「蛋白質の個々のアミノ酸残基が立体構造上の特性との関連で、蛋白質立体構造の安定性にどのように寄与するかを明らかにすること」、つまり、「蛋白質立体構造安定性マップ」の作成を行うための基本的な問題点を明らかにし、マップ作成が可能となるように基盤を整備することを目的としている。そこで、油谷は、ヒトリゾチームをモデル蛋白質として選び、系統的・網羅的変異型を作製して、変異型の安定性変化を示差走査熱量系で構造変化をX線結晶構造解析によって調べ、「安定性/構造」データベースを構築した。それを用いて、種々の安定化因子のパラメータの算出に成功した。一方、西川らは全ての可能な一残基置換の安定性を一挙に表現する「変異型プロフィール」を作成し、そのプロフィールを改良し、3D-1D法を用いる「評価関数」の精度向上を目指している。そこで、「変異型安定性プロフィール」を「安定性/構造」データベースで検証を行い、その問題点を抽出した。またその検証のための幾つかの変異型を作製し、その結果と安定化因子のパラメータを基に、「プロフィール」の改善の方策を明らかにした。
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