研究概要 |
骨のマトリクス遺伝子SM30とSM50の転写を調節するEtsタンパク質の発現様式およびEts遺伝子の転写調節領域の解析を行った。さらに,Ets遺伝子の転写調節領域に結合する可能性のあるT遺伝子のクローニングと,発現パターンの解析を行った。また,Limの機能解析も行った。 1.転写因子Etsタンパク質の発現様式: 未受精卵にEstタンパク質が存在するが,卵割の過程で速やかに消失し,胞胚期に再び現れて間充織胞胚期に発現レベルが最高に達し,プルテウス期には減少することが示された。このことは,未受精卵に高濃度に蓄積されたEts-mRNAは翻訳されないことを意味しており,胞胚期以降の一次間充織細胞胚特異的な発現は,Ets遺伝子が活性化された結果である可能性が高くなった。 2.Ets遺伝子の転写調節領域の構造: 転写開始点下流,5'-UTRにT遺伝子のTドメインの認識配列が存在することが明らかになった。 3.T遺伝子のクローニングと発現様式: T遺伝子のクローニングに成功し,Tbrに属するHpTbが得られた。HpTbは孵化前胞胚から発現を開始し、孵化胞胚期に発現が最高に達し,間充織胞胚期に減少し,以降消失することと,一次間充織細胞特異的に発現することが示された。HpTbrがHpEtsの上流に位置し,HpEtsの転写を調節する可能性が高くなった。 4.HpLimは胞胚期に植物半球で一過性に発現すること,また,HpLimを胚全体で過剰発現させると内・中胚葉の形成が阻害されるとともに,口側・反口側軸が形成されないことが明らかになった。HpLimの発現領域と強制発現による表現型が予想とは逆になった原因として,HpLimの強制発現によりHpLimとの共因子が除去されたためと考えられる。これら結果は,HpLimが,ウニ胚の背腹軸の形成に必要な植物半球からのシグナルの形成に関わることを示唆している。本研究により,さまざまな転写因子のネットワークにより初期胚の遺伝子発現調節が達せされることが明らかになった。
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