研究概要 |
研究実施簿次の平成10年度は,上海から西へ,江蘇省の低地帯を通り,安徽省の黄山山麓まで,約800kmの亜熱帯/暖温帯領域で植物社会学的方法による植生調査と景観調査を実施した。5月の春季調査では21森林,12低木林,51草原植生の調査資料を得た。9月の秋季調査では11森林,8低木林,60草原植生の調査資料を得た。総調査資料数は163である。総和群集法による景観調査も実施し,28の調査資料を得た。調査対象域の低地の気候的極相林として日本のシイ帯帯に対応する,Xastanopsis eyrei,C.sclerophyllaの優占する照葉樹林が認められた。黄山では海抜800m以高に日本のカシ林帯に対応するQuercus gracilisの優占する照葉樹林が確認された。しかし調査対象域の森林植生の多くはコウヨウザン,Pinus massoniana,Phyllostachys herterocyclaなど植林,Quercus fabri,Q.cbenii,Platycarya strobilaceaなどの夏緑広葉樹二次林に置き替わっている。林縁部では日本のノイバラクラス,ヨモギクラスに相当する植生,伐跡地や田園地帯ではススキクラス,オオバコクラス,シロザクラスなどの人里植生,渓谷や河川,湖沼の湿性植生ではPterocarya stenoptera,Cyclocarya paliurus,フウなどの日本では第三紀に消失した種を含む暖温帯の夏緑広葉樹林,日本での絶滅危急種を多く含むヨシクラス,タウコギクラス,イネクラスなどの植生を記録した。調査対象域の景観は西南日本の低地に酷似し,平野は水田,丘陵地は畑地や茶,果樹園,山地は植林と夏緑二次林が配分する。しかし,景観を構成する植物群落や植物種には日本では消失しつつあるものが多い。耕地整理,河川改修,農薬や化学肥料の少ないことが多様な環境を維持し,植生を保全している。1999年1月には日本の東海・関東地方の調査を実施し,中国と対応関係にある森林植生や草原植生の調査を行い,中国で認められた植生の日本における対応状況などを明らかにした。
|