研究概要 |
ヒトやマウスがもつ精巧な自己・非自己識別システムは,長い時間をかけて行われた試行錯誤の結果,形成されたものであり,言うまでもなく「進化」の所産である.したがって,システムの全貌を総合的に理解するためには,ヒトやマウスのみを研究の対象としていたのでは不十分である.そこで,本研究では,ヒトから魚におよぶ脊椎動物を研究の対象として,自己・非自己識別システムの構造,機能,由来を探ることを目的とした.研究代表者は,プロテアソーム遺伝子群を解析することにより,ヒトの9q33-q34領域,マウスの第2染色体傍動原体領域に主要組織適合遺伝子複合体(MHC)様の遺伝領域が存在することを明らかにした.この遺伝領域とMHC,領域は抗原処理遺伝子(プロテアソームのbetaサブユニットをコードするLMP遺伝子とTAP遺伝子)の祖先遺伝子をまきこんだ染色体重複によって分岐・形成されたものと想定された.系統発生的な解析を行うことにより,この染色体重複は今から4億年以上も前に,有顎脊椎動物の共通祖先に起こったものであることが判明した.Flajnikは,ヒトやマウスではMHCクラスII遺伝子の近傍に存在するLMP,TAP遺伝子がアフリカツメガエルではクラスI遺伝子の近傍に位置していることを明らかにした.これから,アフリカツメガエルでは本来のMHCのゲノム構造が良く温存されているものと考えられた.Du Pasquierはアフリカツメガエルの胸腺皮質リンパ球に特異的に発現される免疫グロブリン超遺伝子族分子CTXをコードする遺伝子がMHC内でコードされていることを示した.KaufmanはニワトリMHCの全体をコスミド・コンティグとしてク-ロニングし物理地図を作製した.
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