SAチャネルはあらゆる細胞に発現しており、細胞の基本機能に関わる重要なチャネルであると考えられている。ところがこのチャネルの生理機能は未だにつまびらかではなく、また大腸菌のそれを除いてはその蛋白質も遺伝子も同定されていない。この2つの問題を解決することがSAチャネルを巡る最大の課題である。本研究の目的は、日米双方の努力と協力によってこの二つの課題の突破口を探ることにある。第一の課題については、SAチャネルCa^<2+>透過性を利用して、伸展刺激によるCa^<2+>流入量の測定からSAチャネル活動度を評価するという方法が開発され、これを応用して低浸透圧刺激時の細胞体積調節にSAチャネルが重要な役割を果たすことが明らかとなった(日本側)。また血管内皮細胞の伸展依存性形態変化においてもSAチャネルの生理的役割が解明された(日本側)。一方米国側では原子間力顕微鏡(AFM)のカンチレバーを使った培養心筋細胞への定量的機械刺激法を開発し、全細胞電流との同時記録に成功して伸展誘発性の心筋活動を説明することに成功した。 第二の課題については、線虫の機械受容ミュータントから分離された仮想のチャネル遺伝子mecの配列を元に、そのホモログをショウジョウバエからRTPCR法で単離する試みがなされたが、事実上失敗に終わった(日本側)。一方米国側では多種類の天然蜘蛛毒をスクリーニングし、ある種の蜘蛛毒中にSAチャネルの特異的ブロッカーとなるペプチド成分を発見したが、未だに安定した単一標品を得るには至っていない。しかしながら、ごく最近我々は、酵母から真核生物としては初めてのCa^<2+>透過性SAチャネルの遺伝子(mi d-1)のクローニングに成功した(論文投稿中)。この遺伝子が同定されたことによって、なすべき研究の範囲が大きく広がった。この国際学術研究で築いてきた日米のパートナーシップを生かして、SAチャネルの次なる発展に向けた共同研究を進める予定である。
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