前年度は、KNiF_3結晶のX線回折強度を、4軸回折計および研究代表者が開発した真空カメラを用いて精密測定し、両国独自の方法を用いて共同で解析して比較した。その結果、X線原子軌道解析法および多極子解析法による解析結果は、基本的には一致した。KNiF_3結晶については、諸外国でも多極子解析の例があるが、X線原子軌道解析の結果とは異なる結果が提示されており、これが今回の研究を始める動機のひとつであった。しかし、研究代表者の研究室で、多重反射を避け、入射X線の強度変動を0.5%以下にして行った高精度測定データを使用すると、両者の結果に本質的な差のないことが確認できた。次に、トポロジカル解析により、電子密度分布の特異点を計算してみると、VCIP法は4軸回折計による測定では、明らかに差があることが分かった。差フーリエ図では大きな差は認められないので、トポロジカル解析の重要性が認識できた。本年度、これらの結果をe-mailにより討議し、結晶学の国際誌Acta Crystallogr.に、3編の論文として発表した。また、この結果を更に発展させるため、3月にTsirelson教授他1名を日本に迎えて、1ヶ月の滞在期間内に、既にわれわれが測定した、KMnF_3および、化学的かつ工業的にも重要な、ポリエチレン重合触媒Et(Ind)_2ZrCl_2の電子密度解析を、日露の方法を使用して行っている。またロシア側の提案する熱散漫散乱の実験的補正法を適用し検証を行っている。 本年度は本国際共同研究の最終年度であるが、本共同研究は、学問的にも、人脈構築面でも、実り多いものであった。共同研究の継続が強く望まれる。Tsirelson教授の滞在中に、今後の共同研究の体制について協議する。
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