目的および背景 本共同研究の目的は、日露のX線電子密度解析の第一線の研究者間で、理論および実験技術の交流を図り、21世紀のX線結晶学の展望を切り開くことであった。研究代表者は原子軌道(AO)または分子軌道(MO)に基づく電子密度解析(X線 AO/MO 解析)を行ってきた。軌道関数間の規格直交条件を満たす最小二乗法を創案し、X線回折実験からAOを求めたが、MOは求められていない。一方、理論家であるTsirelson教授は電子密度分布を数学的関数に置換し、得た関数から化合物の物性を計算する方法(多極子解析)を推進してきた。 結果-理論 この二つの方法の接点を探るため、本研究では、ペロブスカイト結晶KNiF_3について、両方法を比較したところ、両者の結果に本質的な差はなかった。多極子解析と共に開発された結晶内ポテンシャル等の物理量を計算する方法は、X線MO解析でも応用できるので、多極子解析をわれわれの研究にも導入する。また、C.Pissani等の提唱する、結晶の周期性を満たす結晶分子軌道を採用し、X線分子軌道法を改良することも、今後の検討課題として浮上した。 結果-実験 X線MO解析を確立するには、測定精度の抜本的な向上が必須である。そこで、イメージングプレートを検出器とし、空気散乱のない高精度実験を行う真空カメラを開発した(VCIP法)。KNiF_3結晶の場合、VCIP法と4軸回折計による測定では、R因子は各0.8%、0.4%であり、差フーリエ図でも大きな差はない。IPへの回折X線強度の斜め入射や、カメラ変数決定等の問題は、最近解決されたので、実験精度の向上が期待でき、VCIP法は、超精密測定の有力候補になった。 総括 本共同研究は、実験面予期以上の成果を上げ、われわれの実験精度の高さを国際的に印象づけた。また、VCIP法は国外でも反響を呼んでおり、共同研究の申込みを受けている。
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