研究概要 |
クロルプロマジンの光化学: フェノチアジン、クロルフェノチアジン、プロマジン、クロルプロマジン光化学において、クロル誘導体ではカチオンラジカルから560nmに吸収をもつ過渡分子種Xが、更にXから380nmに吸収をもつ過渡分子種Yが生成することを明らかにし、Xが主要な生理活性種である可能性を示した。 サリチルアニリドの光化学: 時間分解赤外吸収スペクトルにより、サリチルアニリドの光反応において、寿命8μsの過渡分子種の存在を明らかにた。また、この過渡分子種ではアミドIIに対応する赤外バンドが観測されないことから、キノイド構造をとっていると結論した。 ルシフェリンの光化学: 電子励起一重項状態S_1のピコ秒時間分解吸収/蛍光スペクトルの時間依存性は4順位モデルを仮定することにより説明できることが分かった。このことから、ルシフェリンのS_1にはコンフォーメーションの異なる2種の異性体が存在すると結論した。すなわち、基底状態と同様の構造を持つFranck-Condon状態は180psの寿命で基底状態に戻るとともに、50psの寿命で構造の異なる別のS_1へと変化する。この状態は480psの寿命で最初とは異なる基底状態へ落ちる。なお、この基底状態から最初の基底状態への戻り反応はナノ秒の時間領域で起こる。 ジベンスアゼピンの光励起状態の構造とダイナミックス: ピコ秒時間分解吸収スペクトルにおいて,3種類の過渡分子種が観測されたが,これらはS_2状態,S_1のFranck-Condon状態およびS_1の緩和状態に帰属できる.この分子は基底状態S_0では,2個のフェニル基がバタフライ状に折れ曲がった構造をとっており,Franck-Condon状態のS_1も同様に折れ曲がった構造をとっている.これに対して,緩和した状態のS_1は平面形を取っていることが,ピコ秒時間分解ラマンスペクトルおよび蛍光スペクトルから明らかになった.なお,この構造変化は光励起後20ピコ秒以内に起こる. ビフェニルの光化学反応: 励起一重項状態S_1の構造が中央のC-C結合周りでねじれた構造から平面トランス形に変化することを明らかにした.この構造変化の時定数は20ピコ秒以下でる.S_1状態のラマンスペクトルはT_1状態のラマンスペクトルに極めて似ていることが分かった.このことは,S_1状態の構造がT_1状態の構造と類似していることを示唆している.ナノ秒時間分解赤外吸収スペクトルとナノ秒時間分解ラマンスペクトルとの比較から,T_1状態は対称中心を持つトランス平面構造をとっていることが分かった.従って,S_1状態も同様の平面構造をとっていると考えらる. カルバゾールの光化学反応: 光励起により、極性溶媒中ではラジカルカチオンとカルバジルラジカルが生成し、無極性溶媒中ではカルバジルラジカルのみが生成することを明らかにした。なお、ラジカルカチオンはS_1経由の2光子過程で生成するが、N-H結合の切断によりカルバジルラジカルが生成する過程は308nm励起の場合、S_1状態経由の1光子過程で起こることが分かった。
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