研究課題
基盤研究(B)
本研究は、中国東北地方で家畜化シカ(主として梅花鹿)に集団発生している原因不明の地方病性心筋症(enzootic cardiomyopathy)を日中共同でその病理学的本態及び原因を明らかにすることを目的としたものである。本疾患は、新生あるいは若齢シカに急性心疾患として突然死を招くことから経済的に多大な損失をもたらしている。東北地方は、また低セレニウム地帯としてヒトの克山病(Keshan disease)の発生地域でもある。平成9年から平成11年の3年間、生後1日から2歳齢の40例について現地解剖し、病理形態学的、酵素組織化学的ならびに電子顕微鏡学的に検討を加え、さらに実験的セレニウム欠乏症を作出し、本疾患の病理発生を明らかにした。【平成9年度】本性の形態学的特徴は、ミトコンドリアの著しい膜系小器官の変性とCa沈着を伴う心筋細胞の壊死性融解と収縮帯壊死ならびに血管の硝子様変性で、これら所見は克山病や各種動物におけるセレニウム・ビタミンE欠乏症性心筋症に酷似していることを明らかにした。【平成10年度】共通的かつ特徴的病変として捉えられた肝臓の褐色性変化は、過酸化障害がもたらすセロイド・リポフスチン沈着性であることを明らかにした。さらに本症に併発する肺真菌症の感染成立にTリンパ球の失墜による日和見感染で、セレニウム欠乏と免疫機構の関係を明らかにした。【平成11年度】シカに酷似した肝病変を実験的セレニウム・ビタミンE欠乏症症ラットで作出し、その病理発生は、坑酸化作用をもつセレニウム関連酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼの減少であることを明らかにした。なお、平成10年度より実施した牡鹿及び生存動物へのセレニウム投与により、本症の発生は激減している。
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