研究概要 |
肝線維化は,慢性進行性肝病変の主要な病態であり,全身の臓器線維症(肺,腎,膵,皮膚や大動脈など)の治療とも関連して,その機序の解明は極めて重要である.本研究では,肝線維化において主要な役割を演じる伊東細胞(肝星細胞)を中心に肝線維化の細胞生物学的研究を中国佳木斯大学基礎医学院との間で共同で行い,次のような研究成果を得た; 1.成因の異なる様々なヒトの肝線維化において,肝細胞の壊死巣内および近傍の伊東細胞が活性化され,腫大,増殖して,筋線維芽細胞に形質を転換することが,肝線維化のKey eventであること,さらにそれが胎生期の現象の再現,"胚戻り現象"であることを証明し,その病理学的意義を研究協力校の共同研究者と共に考察した. 2.伊東細胞の活性化の第一段階の組織反応として,局所組織の傷害の結果,伊東細胞が周囲の肝細胞や類洞との関係を失い,"denuded"Ito cell化することが必要であることを見出した. 3.伊東細胞の増殖や筋線維芽細胞化と密接に関係するfibrogenic cytokineのうち,in vitro研究で,もっとも重要であることが証明されているTGF-βについて,TGF-βおよび潜在型TGF-β複合体を構成するlatency-associated-piptide(LAP)および1atentTGF-β bindingprotein(LTBP)の肝線維化巣内での分布と局在を免疫組織化学的および免疫電顕観察により,初めて明らかにし,TGF-βのパラクリン(線維化巣内の胆管上皮細胞による分泌も含める)およびオ一トクリンによる作用機序を示唆した.また,正常肝の静止期伊東細胞によるLTBP産生を証明した. 4.相手校のヒト肝組織の症例に,少数例ではあるけれども,わが国では類例を見ない線維化症例を経験した. 5.三年間の共同研究を通して,十分な意志疎通が可能となり,中国の東北部に共同研究の拠点が得られ,今後,肝線維化について,地理病理学的研究の推進も可能となった.現在,肝線維化について,さらに分子生物学的研究を展開するため,研究施設や体制の整備を行っている.
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