日本の古典籍の翻刻・出版は、日本文学、日本語学、日本史、宗教史等の基礎資料を提供する点できわめて重要な活動であるが、それらの典籍には右ルビ、左ルビ、二行割り、三行割り唐をはじめとして、きわめて複雑な組版を必要とする。近年御活版印刷の衰退、電算写植の興隆という印刷界における技術ベースのシフトのなかで、これらの複雑な組版をリ-ズナブルな値段で実現することがきわめて困難になってきているため、重要な資料の出版が経済的な理由から見送られているというゆゆしき事態が進行しつつある。この窮状を打開するためにパソコン等を用いて研究者自らが版下を作成するという手段も検討されているが、通常のDTPソフトでは上記のような特殊な組みはやはり難しいのである。 ここで我々が提案するのが、LaTeX(ラテフまたはラッテク)の応用である。LaTeXはさまざまなDTPソフトのなかでも最も柔軟で強力な組版能力を持っている上、フリーソフトウェアである故に多くのパソコンやWSに実装されているという点でもきわめて有利である。ただしLaTeXを従来のままで古典籍に応用するのは簡単ではないので、我々は古典籍用のマクロを提供し、だれもが簡単に必要な組みを実現することができるようにした。我々のマクロはネットワーク上にも公開されているし、昨年10月には「訓点語学会」において成果を発表し、また雑誌「訓点語と訓点資料」にも解説論文が掲載される運びとなっている。
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