本研究では、21世紀に向けた中国を中心とする北東アジア全域での多国間の環境保全の具体的な政策課題を海洋水質汚濁に注目して、システム分析を行った。すなわち、中国を軸とする北東アジア地域の環境負荷構造の変化に対応した環境負荷評価モデルを開発し、多国間の事前対応のための環境保全政策の課題を検討するために、中国、韓国、極東ロシア、日本(日本海沿岸部)における水質汚濁負荷量を具体的に推定した。汚濁負荷量の推定結果の主たる特徴をは以下の通りである。 (1)汚濁負荷の河川流域・沿岸海洋への排出量は、1990年と1994年の2時点とも、日本海、黄海のどちらの海域への排出で中国側は一番多い。そして、韓国、日本、極東ロシアの順となっている。極東ロシアは経済の崩壊で減少し、日本、韓国は大きな変化は見られない。 (2)排出水準の変動はその国の経済水準と政治状況を反映していると考えられる。中国では沿岸域で産業化が急速に、進行しつつ、それに伴う環境汚染も深刻化になりつつある。従って、一人当たりの排出水準が約50%近くも1990年代前半で増加した。 (3)中国の汚濁負荷量の増加は、郷鎮工業の著しい発展による部分が大きく、黄海への流出量は公式統計(県及び県以上属企業)による工業系と生活系からの負荷量より大きい。主な原因は1992年のトウ小平氏の"南巡談話"等による郷鎮企業の大発展への政策転換による汚濁負荷量の増大が考えられる。
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