本研究は、為替レート変動、景気循環や個別産業の市場規模の変化といったマクロ経済変動と、産業組織の変化の関係についての統計的規則性を、ミクロの事業所・企業レベルでの生産調整行動を通じて明らかにすることを目的とする。 まず、機械産業を中心に市場変動の激しい例示的な品目を選定し、生産動態統計のミクロデータにアクセスし、寡占集中度等を算出しクロスセクション分析を行った。その結果、生産量の減少/増大に伴いハーフィンダール指数が顕著に上昇/下落する関係が多くの品目で観察された。しかし、生産量が減少した品目では、集中度の上昇には撤退が影響しており、産業内分散はむしろ減少しており、その中には、生産量の最も大きかった事業所の生産削減率が他に比べ一貫して高いというかたちで分散が縮小していった品目が見られた。これらの観察結果は他の要因を全く制御していないことからも予備的なものと評価すべきものであることは明らかで、こうした激しい産業組織的変化をもたらした要因として、近年の日本では、円高による輸入の浸透が無視できないだろう。 続いて、これらの分析もふまえ、輸入が国内生産に与える影響を分析するために、生産動態統計のミクロデータと貿易統計の接合を試みた。テレビ、エアコン、時計の3品目について、HS9桁レベルに溯る品目分類の整合を行い、企業レベルの生産に関する月次パネルデータセットを構築した。国内生産の輸入価格弾力性の推定を行ったところ、産業により、また同一産業内でも企業により大幅に異なる値をとること、輸入品に近い低価格帯の財を供給している企業の方が輸入に対する反応が顕著に強いという垂直的差別化によって解釈可能な傾向が、財、推定法にかかわらず観察されることなどが確認された。 今後、輸入の影響について、生産量だけでなく、価格、雇用の側面、逆輸入の効果の違い等にも視野を広げて分析を深めていくことが必要となろう。
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