本研究では、原子系の応答を再帰利用した高精度分光法(Recurrent Excitation Spectroscopy:RES)の開発および解析を行った。RESの一過程は、任意波形発生器により発生させた信号を原子系に照射し、原子系か輻射される自由誘導緩和信号(Free Induction Decay:FID)を波形記録装置により記録し、そのデータを任意波形発生器に転送する操作からなる。この操作を繰り返すことで、原子系の持つコヒーレンスが、FIDに蓄積され、結果的に極めてコヒーレンスの高いFIDが得られる。高コヒーレンスのFIDをフーリエ変換すれば、スペクトル幅の狭い分光信号を得ることができ、原子共鳴線の中心周波数を精度良く決定できる。 実験的研究として、質量数が85のRb原子の基底状態のゼーマン準位を用いた計測で、スペクトル幅の狭窄化を確認した。更に、波形記憶装置と任意波形発生器の間にコンピューターによるデータ処理を介在させ、強度の弱い質量数が87のRb原子のゼーマン信号の強調計測も行い本方法の有効性を示した。 理論的研究として雑音を加えたRESについて解析した。雑音の大きさによって決まるある回数まで、スペクトル幅は復帰回数nの1/2乗に比例して狭窄化され、信号対雑音比はnの-1/4に比例する事が判った。 RESの有効性を示すため、RESと従来の分光計測における単純平均法とを比較した。単純平均法では、スペクトル幅は変化せず、信号対雑音比が積算回数nの1/2乗に比例して向上する。RESにおけるスペクトル幅がnの1/2乗に比例して狭窄化される事を考慮して、RESによって得られたスペクロルを1/n乗すると、単純平均法と同じスペクトル幅で、信号対雑音比がnの3/4乗に比例して向上する事が判る。従って、RESの方が従来の単純平均法よりも信号対雑音効果を向上させる計測法であることが判った。
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