1.自由エネルギーの多谷構造(Rugged Landscape)の幾何学 ミクロ相分離後の最終状態はある自由エネルギーの極小値に対応すると考えられる。そのようなlocal minimizerがどれぐらい存在し、又どのように分布しているかは物理的観点からはむろんのこと、数理的観点からも興味ある無限次元の幾何学問題である。しかし一般にlocal minimizerの決定はやさしくない。本研究では特異極限法の手法によりこの問題を解決し、local minimizerの個数が特異極限において無限大となることを示した。これは多谷構造の存在を厳密に証明した最初の例と思われる。発展方程式を解くことにより、well-mixedの初期値から出発して現実にどのminimizerに行くかという問題についても数値シミュレーションにより多くの知見が得られた。 2.散逸系における多谷構造の普遍性 散逸系においては多谷構造が極めて普遍的なクラスをなすことが明らかにされた。とりわけTuringパターンと呼ばれる反応拡散系における安定な定常解の全体は非常に多数の微細構造をもつものからなることが示された。同時にポリマー系と同様なスケール則を有することもそこで明らかにされた。 3.回転粉粒体の相分離 粉粒体における相分離の研究を実施した。これは、よく混合した2種類の粉粒体(例えば砂とガラスビーズ)を水平に置いたガラス管の中に封入し回転させたときに、分離が起こり回転軸に沿ってバンドパターンが生じるという現象である。通常我々が、粉粒体を管に封入して回転させるのは、2種類の粉粒体を混ぜることを意図して行うものである。しかし、現実には2種の粉粒体は分離してしまい、しかもその分離は回転軸に沿って起こるという不思議なことが起こるのである。この現象を理解するため、我々はまず実験を行い、それをもとに空間1次元の偏微分方程式系を用いてモデル化を行った。
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