高分子の「ボンド揺らぎ模型」に、高分子の伸長部分に生ずる張力の効果を確率過程として取り込む、新しいアルゴリズムの開発に成功し、それを用いて、強電場領域を含めた広い電場領域における高分子ゲル電気泳動-アガロースなどのゲル中における電荷を持った高分子(DNA)の電場下での泳動-の解析を行った。 高分子の格子模型の一つであるボンド揺らぎ模型に基づく従来のモンテカルロ法では高分子の張力が考慮されていないため、強電場領域において高分子がゲルにピン止めされて動かなくなるという困難が知られていた。この困難を回避するため、現実の高分子で生じている、張力によるグローバルな運動(電場方向に長く伸びた側にすり抜けるような運動)を、適当なモノマーのグローバルな移動(付け替え)として導入した。具体的には、グローバルな異動の対象となるモノマー(高分子鎖のたるみ部分を代表するもの)を定義し、そのグローバルな移動試行を詳細釣合の条件を満たす確率過程として導入する。さらに、このグローバルな移動に対しても高分子鎖が交差しないことを満たすアルゴリズムを構築した。 この新しいアルゴリズム「拡張されたボンド揺らぎ模型」によって、強電場領域では障害物へのピン止めの困難は解消され、contraction と elongation を繰り返す'worm-like'運動も観測された。さらに、移動度の電場依存性およびモノマー数依存性なども含めて、このアルゴリズムは、広い電場領域で観測されているゲル電気泳動の振る舞いを定性的によく再現しており(投稿論文準備中)、今後、この方法を用いて関連する高分子ダイナミックスの研究を進めて行きたい。
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