研究概要 |
電解質水溶液系において、粘性が濃度ともに増加する水溶液(正の水和)と、減少する水溶液(負の水和)について、低振動数ラマンスペクトルの温度変化と濃度変化を測定し、これらを比較することにより、水の動的構造を検討した。 測定に用いた水溶液は、NaCl、KCL、RbCl水溶液である。各水溶液の濃度は、モル比(mXCl/nH_2O,X=Na,K,Rb)で0.02から0.08であり、測定温度範囲は約260K(過冷却状態)から約340Kである。測定振動数領域は-50〜-250cm^<-1>である。 低振動数ラマンスペクトルを、ポ-ズ因子で補正することで、系の動的感受率の虚部χ"(ω)を得る。水と水溶液系の補正ラマンスペクトルには、約180cm^<-1>と50cm^<-1>付近にピークが、10cm^<-1>付近にショルダーが観測され、これらは温度/濃度で大きく変化する。補正されたラマンスペクトルを2個の減衰振動モードと1個のコール・コール型の緩和モードの重ね合わせとしてフィッティングを行った。 解析より得られた各水溶液中の水の緩和時間の逆数(g_1=1/2πcτ)の温度変化を純水の緩和時間の逆数の温度変化と比較検討した。得られた緩和時間は、過冷却状態より高い温度領域では、各水溶液とも、どの濃度においても水の緩和時間より遅くなっている。過冷却状態の温度範囲(270K以下)では、NaCl水溶液を除いて、KCLとRbCl水溶液の緩和時間は水の緩和時間より短くなっている事が、濃度が高いときにはっきり現れている。このことは、粘性に観測される水和の違いを表していることが明らかになった。
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