1.通常の光散乱スペクトルにおいては、温度変化を解析する際、ボソン因子を考慮する必要があるが、振動モードを分離して議論できない場合には、解釈が難しい。それに比べ、光パルスを用いた誘導光散乱では、応答関数自体を得ることができ、温度変化の議論に都合が良い。ガラス状態から過冷却液体へのダイナミクスの変化を、フェムト秒パルス誘導光カー効果を用いて測定した。ガラスおよび、過冷却液体の低振動数領域の光散乱スペクトルを振動モードと緩和モードを分離して解析するのではなく、ガラス状態からの温度上昇にともなうダイナミクスの変化として、振動モードの(モード間の非線形相互作用を含む)非調和性の増大を考慮に入れ、非調和性の極限として緩和モードを捉える立場で解析を進めている。 2.低分子有機ガラスとして、いくつかのアルコール類やベンゼン類の過冷却液体を通して得られたガラスを試料とし、色素分子を導入して極低温で共鳴蛍光の測定を行った。その結果、電子格子相互作用で重み付けられた有効状態密度スペクトルの規格化された形状は、これまで非晶質高分子ポリマーホストにおいて得られたものに一致し、普遍的であることが認められた。さらに、ホスト媒質に対するラマン散乱スペクトルを測定し、色素をドープした試料における有効状態密度スペクトルとの比較を行った。その結果、ボソンピークにより高エネルギー側ではホスト非晶質の個性が現われるが、ボソンピークを含む低エネルギー領域で、(グリセリンを除き)すべてのホスト非晶質において、普遍的な形状を示すという結果を得た。これらの結果は、非晶質系における低振動数モードの定量的普遍性の存在を強く示唆するものである。
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