硫黄循環過程における微生物バイオマットの寄与を評価するために、硫黄酸化細菌被膜(硫黄芝)を中心に、安定硫黄同位体を用いた解析を行い、さらに微生物バイオマットの地球史における進化的位置づけを行った。具体的には、長野県大町市の湯俣温泉に着生する硫黄芝(硫黄酸化細菌被膜)について、1)生育環境条件(水温・pH・流速・温泉水の主要化学成分分析・溶存酵素・溶存硫化物など)の現地調査、2)新たに発見された「黒い硫黄芝」についての光学顕微鏡的解析、および3)硫黄芝の現場における流水システムに関連する硫黄化合物についての安定硫黄同位体組成の分析を行った。さらに鹿児島湾海底に湧出する温泉(たぎり)の硫黄芝様バクテリアマット、宮城県蒲生干潟の硫黄酸化細菌バクテリアマットについても現地調査と安定硫黄同位体組成の分析を行った。結果の解析と検討に際しては、秋田県蟹場温泉での結果を参考にした。安定硫黄同位体の測定は、試料の調整後岡山大学固体地球研究センターで一括集中して行った。 硫黄酸化細菌被膜(硫黄芝を含むバクテリアマット)の生育環境に関わる硫黄同位体組成の測定の結果、環境に含まれる硫化物とバクテリアマット(硫黄芝)に付着する単体硫黄粒・菌体内同化硫黄の硫黄同位体組成はほぼ一致したが、温泉水中の硫黄イオンの硫黄同位体組成とは大きく異なった。このことから、温泉を含めた硫化水素環境では、硫黄酸化細胞は(硫酸イオンでなく)硫化水素を直接吸収同化している可能性が示された。このことは初期地球硫化水素環境下で硫黄酸化細菌被膜が当時の硫黄循環過程に大きな因子として働いていたことを予想させた。
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