研究概要 |
本研究は固体ポリ酸を出発物質としてこれを適当な条件の下で熱分解することにより、電子伝導性・イオン伝導性を持つ新規金属酸化物を創製することを目的としている。本年度は還元型の球状ポリバナジン塩酸、(NH_4)_<12-X>H_X[V_<18>O_<42>(H_2O)]nH_2Oを原料にこれをAr+NH_3気流中で焼成した。X線回折分析の結果200〜250℃では無定形物質が、350℃以上では既知物質VO_2が生成した。300℃ではバナジウムブロンズ(NH_4)_<0.6>V_3O_7が生成することを見い出した。リ-トベルト解析の結果CNH_4)_<0.6>V_3O_7はVO_5ピラミッドから成る六方晶(a=9.8012(2),c=3.6187(2))のトンネル構造で、トンネル内ではNH_4^+がV=O末端のO原子と水素結合していた。V原子は結晶学的には等価であるが、分析の結果5価/4価の混合原子価状態で電気伝導性を有することがわかった。(NH_4)VO_3,VOSO_4など他の出発物質では(NH_4)_<0.6>V_3O_7の生成は見られず、(NH_4)_<12-X>H_X[V_<18>O_<42>(H_2O)]nH_2Oに特異的な生成物であることが示唆され、本法は金属酸化物の新規合成法として有効であることが示された。 (NH_4)_<0.6>V_3O_7がトンネル構造を有することに注目し、NH_4^+とLi^+との交換反応を試みた。(NH_4)_<0.6>V_3O_7を0.6M LiOH/2-methoxyethanol中で還流したところ、(NH_4)_<0.4>LiV_3O_7が得られた。X線回折分析の結果骨格構造は維持されており、a(=b)軸は原料より約0.05Å^^O短くなっていた。末端V=OのIR吸収バンド(約1000cm^<-1>)は低波数側にシフトしておりLi^+がトンネル内に存在しているものと結論した。(NH_4)_<0.6>V_3O_7を電極として1M LiClO_4/PC中での電気化学測定を行ったところ、Li^+の挿入・脱離を示唆する酸化・還元波が見られ、Li二次電池の電極材料への可能性を今後検討する。
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