イオンの輸送効率は、イオンの通過に際して媒体の拡散定数の制限からの解放の程度に大きく依存している。従って高速イオン流束機能の達成には個体媒体中にイオンを通過させるための通過路(イオンチャネル)を超分子的に組織化することが最も有効である。 これまで脂質2分子膜で親水性-疎水性の違いに基づく分子認識を用いて大きなイオン流束を発生する場を構築できることを見いだしている。そこで単一分子で広く硬い疎水面と、適度の親水性を提供できる両親媒性分子であるコール酸のエーテル誘導体を合成し、これをウレタン結合を用いて2分子連結した2分子膜を貫通するイオンチャネル構造体を合成した。本チャネルは極めて安定な電流を継続して流すことができ、特に開状態が長時間持続する、従来のハーフチャネルには見られない優れた特性を示した。これはコール酸を連結して、脂質2分子膜を貫通する構造体の利点を示すものと考えられる。また比較的限られた種類の伝導度を示し、超分子チャネルを構築する分子数が限定されていることが示された。 次にオリゴエーテル鎖の末端に四級アンモニウム基を取り付け、疎水性モノアルキルリン酸エステルと組み合わせたイオン対脂質を用いて、超分子イオンチャネルを形成させた。このチャネルは電位に依存して多数のイオンチャネル構造体が膜中に取り込まれ、大きなイオン流束を発生する電位依存性チャネルであることを見いだした。このチャネルもカチオン選択性を示し、チャネル内部の構造がイオン選択性を決定している主因子であることが示された。 また分子末端に配置したサリチル酸をオリゴ(オキシエチレン)基で連結した配位子を合成し、サリチル酸部位と金属イオンとの間でアート錯体を形成させ、アルカリ、アルカリ土類金属イオンを対カチオンとして有するポリエーテル網目構造体に組織化した。
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