本研究は少数多体系として、無極性分子から構成されるファンデルワ-ス錯体を研究対象として選び、クラスター内の分子配向を決定する分子間相互作用ポテンシャルとクラスター内分子運動のメカニズムを解明することを目標とした。 従来の量子化学計算では最安定平衡構造すら確定していない状況なので、実験の指針となりうる信頼の高い計算を行うために、Gaussianの基底関数をcc-pVQZレベルにまで拡大し、配置間相互作用もCCSD(T)レベルまで入れた大規模なab initio計算を行った。その結果、最安定構造は従来報告されていたT型(C_<2v>)でもX型(D_<2d>)でもなく、45度の平行四辺形型(C_<2h>)となった。C_<2h>からC_<2v>を経由して等価な別のC_<2h>配置をとる反応座標はポテンシャル障壁が5cm^<-1>と著しく小さいことが分かった。これは2つのN_2分子が互いに歯車がかみ合うような協調内部回転運動(ギヤ運動)の存在を示唆するものである。このことを考慮して分子の平均構造を始め、振動エネルギー、振動遷移モーメントの見積りを再検討した。その結果、フンデルワールス伸縮モードのバンドオリジンは6600GHzとし、平均的な振動遷移モーメントの期待値として0.004Debyeに下方修正した。 以上の量子化学計算の予測に基づき、実際に分子線中の振動回転スペクトルのサブミリ波分光測定を試みたが、予想通り遷移強度は小さく(N_2)_2クラスターの検出はできていない。そこで、(N_2)_2クラスターのように永久双極子を持たない分子の回転スペクトルを測定するために、2本のCWレーザーの差周波の位相を安定化した分光光源を開発した。Rb原子のD_2線の光-光2重共鳴信号を位相敏感検出することによって、マイクロ波遷移に対応する超微細構造準位間遷移の複素感受率の実部と虚部を独立して測定することができた。共鳴信号の線幅は4MHz程度である。この結果は光を使って無極性分子の純回転遷移をマイクロ波の精度で観測できる事を実証するものである。
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