径路積分セントロイド分子動力学(CMD)シミュレーションの運動方程式(定温規準振動CMD法)、数値積分アルゴリズム、およびCMDシミュレーションのためのプログラムを開発した。さらに、リチウム原子1個をドープしたパラ水素クラスター(パラ水素分子は13、55、180個)に対して、2.5Kおよび4.0KでCMDシミュレーションを行い、その構造と実時間ダイナミクスを調べた。CMDで計算されたセントロイドのトラジェクトリーをもとに、平均二乗変位、速度自己相関関数のパワースペクトルを解析した。その結果、2.5Kですでに、13個のクラスターは融解し、バルク液体と同様の分子拡散を呈していることがわかった。しかし、一般に古典極限での系はこれらの温度では融解しなかった。核の量子化により零点振動によってセントロイドの感じる有効ポテンシャルが浅くソフト化することがわかった。量子化した系が古典系よりも融解しやすい理由はこの有効ポテンシャルの変化であることもわかった。また、セントロイドの速度自己相関数関数のパワースペクトル(フォノンの状態密度)からは、量子化によってスペクトルが著しくレッド・シフトし、有効ポテンシャルのソフト化に対応していることがわかった。また、180個のクラスターでは表面融解が起こるものの、クラスター内部はこれらの温度では融解せずにコアが生成していて、このコアから生じるフォノンの振動数は、バルクの個体のパラ水素の典型的なフォノンの振動数の観測値に一致した。また、クラスターは一般にサイズが大きくなるほど融解しにくくなることや、リチウム原子はクラスターの表面に付着される傾向があることもわかった。
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