希薄溶液中の反応は常に溶質分子が均一に溶解している場合の反応と思われがちである。実際には分子がクラスターとなって凝集し、均一系としては考えられない特異的な反応(1分子1光子イオン化)を行っている例をフェムト秒紫外光超高速分光によって証明した。すなわち、溶液中でのヨウ化メチレン(CH_2I_2)をフェムト秒の267nmの光で励起すると、先ず、光解離による、CH_2Iラジカルの生成(立ち上がり時定数200fs)と溶媒の篭の中での減衰(減衰時定数500fs)が起こる。続いて、電荷移動錯体が形成(濃度に依存して7-50ps)し、さらには完全な電子移動が起こり、最終的にCH_2I_2^+が生成する。この光反応は光強度に対して一次であった。遅い立ち上がりの濃度依存性は、均一溶液内での拡散によるIとCH_2I_2の錯体生成であると考えた場合、実験で用いた濃度領域では5-100nsの時定数を与えることになる。これは実測値(7-50ps)と約1000倍異なっている。従って、ピコ秒領域における電荷移動錯体CH_2I_2δ^+・・・Iδ^-の形成は、均一溶液内で起こるのではなく、あらかじめ溶質が凝集している必要があり、その凝集体(クラスター)の中で光解離から始まる一連の反応が進行している。溶質のクラスタリングこそが、気相では観測されない、溶液内で特異的におこる反応の要因になっていることが示された。本研究は、今後溶液中における化学反応の研究が、従来あまり考慮してこなかった溶質間相互作用によるクラスター化の効果を検討してゆく必要があることを示すものと考えられる。
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