我々は、層状銅水酸化物にインターカレートされる有機分子の構造によって、無機層の磁気特性が変化することをすでに見いだしている。今年度は、二つの全く異なる磁気特性を、同一の物質の上で実現することに成功した。試料は、アゾベンゼン部位を分子末端にもつ長鎖カルボン酸をインターカレートした層状銅水酸化物である。この系は、メタノールを溶媒とした合成直後には交互単分子膜構造をとっている。この有機層は、アセトニトリルに分散させることにより、交互単分子膜構造から二分子膜構造へと徐々に変化する。このような構造変化は、LB膜や生体膜の一部で知られていたが、無機層状物質内でも生じることが分かったのはこれが初めての例である。さらに興味深いことに、この二分子膜相を元々の合成溶媒であるメタノールに浸して加熱すると、交互単分子膜構造に戻ることが分かった。つまりこの系は、異なる分散媒に浸すことにより、可逆的に層構造変化をひき起こすわけである。交互単分子膜相と二分子膜相の磁気測定を行った。単分子膜相は全温度域で常磁性的性質を示すのに対して、二分子膜相の磁化率は10K付近で発散し、この相が弱強磁性体であることが分かった。溶媒に浸すことで常磁性相が強磁性相に転じるというわけで、Solvato-Magnetismとも呼ぶべき現象である。有機と無機の複合ナノコンポジットをつくることにより、有機物らしい性質と無機物らしい物性を結びつけることができたと考えている。
|