研究概要 |
電極反応などの固液界面での触媒反応過程はこれまで種々の電気化学手法用いて検討されてきたが、電流などのマクロな物理量の計測から分子レベルの情報を得ることは困難である。本研究は,時間分解赤外分光を用いて反応メカニズムを分子レベルで理解することを目的として行った。 1.自己集積単分子膜の構造・特性解析:4-メルカプトピリジンで修飾したAu電極は金属タンパク質の酸化還元反応を促進する。赤外分光ならびに電気化学STMを用いてこの機構を解明した。(1)赤外スペクトルは、溶液のpHならびに印加する電位によって大きく変化する。これまで配向の変化によるものと解釈されてきたが、吸着分子のプロトン化・脱プロトン化に因るものであることを明らかにした。(2)これを基に、吸着分子のpKa値を、溶液pHと電位の関数として、はじめて決定することができた。(3)STM観察により、酸性溶液中で(5x√3)の規則構造をつくること、2分子が結合してジスフフィドを作ることなどを明らかにした。(4)この電極を用いた電気化学測定から、表面分子の約半分がプロトン化することによりチトクロムcの酸化還元が完全に妨害されることがわかった。(5)以上から、ピリジン環の窒素原子と金属タンパク質の相互作用が重要であると結論された。 2.電極表面への核酸の吸着:DNAを構成する塩基であるシトシン、アデニン、ならびにこれらの誘導体分子の吸着挙動を赤外分光により検討した。(1)零電荷電位を境に、配向ならびに表面との結合状態が大きく変化する。(2)これまでアデノシン3りん酸などは、電極表面が正に帯電する電位ではりん酸部分で吸着すると言われてきたが、アデニン部分で吸着することを見いだした。(3)申請者等が本研究課題で発展させてきた表面増強赤外分光法が、生体分子の研究にも極めて有効であることを示した。
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