この研究は、仮想世界が人間の脳に及ぼす影響を分析・把握する手法を確立するとともに、リアリティ感覚に作用するすぐれた伝統的演出戦略についての知見を応用し、より高度なリアリティ感覚を電子的により効率よく実現する演出戦略を開発するものである。今年度は主に以下の成果が得られた。 (1)申請者らが開発したメディアと脳との適合性を主に脳電位活性を指標として評価する手法をさらに発展させ、脳のなかで造成される非日常的現象の達成具合を、できるだけ客観的に計測・評価する手法の開発をおこなった。具体的には、脳波の過渡的変化の解析手法の開発、メディア情報提示と被験者の体位との関連の検討などをおこなった。 (2)音響のリアリティ感覚を増大させる効果をもつ可聴域をこえる高周波成分に着目し、音を提示した時の脳波のミクロな時間領域における過渡的変化を検討した。その結果、高周波を含む音を提示すると、音の聞き始めの数秒間において、脳波α波ポテンシャルが抑制されることが見いだされた。これは「注意の喚起」によるα波の抑制と関連するものと推定され、高周波成分によるリアリティ感覚の増大を説明する結果といえる。 (3)映像のリアリティにおいて重要な要因となる精細度について、その生理的心理的影響を、脳波α波分析およびシェッフェの一対比較法によって検討した。その結果、人間の視覚限界をこえる画像の細かさが、人間に生理的心理的影響を及ぼすことが見いだされた。 (4)伝統的祝祭やパフォーミングアーツなどの領域で、脳のなかに虚構のリアリティ感覚を造成する演出手法のなかから、電気的仮想世界の演出に効果的と思われる事例を、高精細度映像で記録した。これらをもちいた映像作品を試作した。
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