筆者は、野外自律移動車の実環境理解を行うためには、三次元距離計測装置である、実時間で稼働するステレオ視覚システムが必要と考えた。筆者は、文部省の重点領域研究費によって、多くの移動ロボット研究者の基本的研究プラットホームたる、実時間ステレオシステムを開発することを第一と考えた。筆者のいう実環境の理解とは、移動車両の周囲に存在する対象物の認識ではなく、移動車両前面に広がる三次元領域の空間把握である。すなわち、移動車両が安全にかつ容易に移動するための領域を実時間で検知し、その情報をロボットに与えることである。筆者は、2眼のステレオ視覚にPRPSやLDMといった手法を独自に開発し、準実時間という段階で三次元領域の空間把握の実験に成功すると同時に、その視覚システムを実験用移動車両AFV(Autonomous Field Viehcle)に搭載して、障害物の検知や障害物の回避の実験に成功している。筆者はこれらの研究成果を踏まえて、2眼のステレオ視覚にPRPSやLDMといった手法をファームウェアとして組み込んだ新しいステレオ視覚システムを開発することとした。このシステムは、日本電気のRISCチップであるV853を基本としたシステムであり、このチップを複数利用する走査線分割型の並列処理手法を用いている。設計のスペックは10台のV853を用いたビデオレートの三次元領域空間把握である。処理手法をPRPSに限るならば、1台のV853で十分な性能を得ることができる。設計は初め、A/D変換部とV853を用いた画像解析部を分離して、画像解析部を並列化する手法を用いてテストシステムを開発した(1996年度)。この設計は、最小個数の部品で構成するという観点から合理的であったが、開発したシステムは初期の目的を達成できなかった。その理由は、A/D変換部とV853を用いた画像解析部を分離したことによる共有利用の困難さであった。開発したシステムはしばしば起きるノイズの発生という大きな問題を生じた。この問題は短時間での解決が不可能と判断し、筆者は、最小個数の部品で構成する合理性を捨てて、A/D変換部とV853を用いた画像解析部を統合したシステムを再度設計し開発を行った(1997年)。現在このシステムの最後の調整を行っている。
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