本研究の目的は南極周回気球実験に用いられた原子核乾板、X線フィルム解析用の顕微鏡システムをつくり、これまでに観測の行われていない100TeV領域における宇宙線の組成を求めることである。今年度は顕微鏡解析室の構築と旧式顕微鏡の光学系補充によりフィルム解析を行える体制を整え、実際に原子核乾板データ採取を始めた。主としてもっとも最近行われた日米共同南極周回実験(JACEE14)の高エネルギー事例の解析と入射宇宙線粒子のエネルギー決定精度の較正を行った。その結果得られた宇宙線陽子、ヘリウム成分のエネルギースペクトルに関しては、すでに論文がAstophysical Journal誌に受理され、近々掲載予定である また長時間照射によるX線フィルムのバックグランドがエネルギー決定精度に与える影響を調べた。その結果、これまで報告されているエネルギースペクトルについて再検討をする必要があることが分かり、その補正項を求めるための解析を現在行っている。 解析と並行してデータの画像処理システムの開発も行ってきた。これは顕微鏡にCCDカメラを取り付け原子核乾板に記録された宇宙線粒子の飛跡を画像データとしてパソコンに取り込み、これまで入手で行っていた入射粒子の電荷決定を自動的に行うことを目的としている。 この解析装置を用いてZ=3〜8の粒子の電荷測定精度を上げ、100TeV領域宇宙線の起源、伝播モデルを検証するのに有効となる宇宙線組成中のC/O比や(Li+Be+B)/(C+O)比を今後求める予定である。すでにシステムは完成し、いくつかの画像処理法、データ解析法を比較してそれぞれの電荷決定精度を求めるための較正を現在進めている。
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