研究概要 |
1.本研究は、希ガス結晶における水素、重水素原子の化学反応と拡散の過程を実験的に追跡し、その速度を相互に比較することにより、多体相互作用の場において進行するトンネル効果を測定することを目的としている。 2.実験は、極低濃度にH_2Sをドープした自立した希ガス(kr,Xe)の結晶(多結晶)を作成して行った。この結晶に対して紫外部のパルスレーザー励起を行い、赤外吸収などの分光学的な方法で反応物や生成物の同定、時間的変化の追跡を試みた。 (1)結晶中の単離状態とスペクトルの同定一固体中でH_2Sがどのような状態で存在しているかに関して赤外吸収スペクトルのKrとXe結晶中での濃度変化測定結果から、比較検討した。また、Kr結晶中で、D_2Sについてのスペクトルを測定した。その結果、スペクトルには単量体と多量体の両者が含まれること、また単量体のスペクトルは回転構造を有することを明らかにした。Kr結晶中では、単量体のスペクトルは2610-2640cm^<-1>の範囲に現れ、一方、多量体のスペクトルは2575cm^<-1>及びより低波数側のピークがこれに対応する。 (2)紫外光分解一結晶中のH_2Sの紫外光分解を試み、赤外部の吸収スペクトルの強度変化から分解速度を検討した。単量体、多量体のピークとも紫外部のレーザー照射によって減少する。その速度は、ほぼ濃度に1次の依存性を示す。それぞれレーザー波長に対して異なった依存性を示し、特に励起波長の長波長化に伴い、多量体の分解速度が遅くなる傾向が認められた。また、H_2SとD_2Sとでは2倍程度の差異が認められ、今後、これらの測定方法を用いて同位体効果を解明する予定である。
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