本研究では、多次元のトンネル現象の新しい半古典理論を構築し、その化学反応への応用を行った。現在までに、(1)トンネル座標以外の振動励起、脱励起のトンネルへの効果、(2)多次元トンネル化学反応系(時間依存のトンネル現象)で、反応確率を高めるためのエネルギー注入モードや、生成物のエネルギー分布のあり方、(3)多体効果としてのカオスとトンネルの関わり、等を定性的かつ定量的に解明しつつある。また、(4)この一般化された古典力学解を経路積分に組み込み、トンネルを許容する半古典理論を構成し、一般的な化学反応系に応用したところ、トンネルチューブと呼ぶ多様体の存在とその重要性が明らかになった。トンネル現象を起こし易くするためのエネルギー注入のモードや、生成物におけるエネルギー分布などが、このトンネルチューブの大きさによって決定されていることが分かった。 本年度はさらに、(5)量子論を比較することによって、本半古典理論から計算されるトンネル確率とそれに伴う反応速度定数の精度の高さを実証した。(6)エネルギー障壁より高いエネルギーでの化学反応において、いわゆるダイナミカルトンネルも寄与を始めて見積ることに成功した。これらは、今後のトンネル化学反応や多体トンネル効果の研究の重要な基礎をなすものである。 我々はまた、カオス状態にある分子振動に関連して、今までに知られていな種類のダイナミカルトンネル現象を発見し、これを第二種ダイナミカルトンネルと呼んだ。これは、適当な厚みを持つセパラトリクスの中で量子化された波動関数の、自発的量子局在にともなって生ずるトンネル現象である。第二種ダイナミカルトンネルの発現の、プランク定数への依存性が極めて興味深いものとなっている。
|