径路積分セントロイド分子動力学(CMD)シミュレーションの運動方程式(定温定圧CMD法)、数値積分アルゴリズム、およびそのCMDシミュレーションのためのプログラムを開発した。さらに、リチウム原子1個をドープしたパラ水素のクラスター(パラ水素の分子数は13、55、180個)とパラ水素スラブ(厚板)に対して2.5〜14.7Kの範囲でCMDシミュレーションを行い、分子の実時間ダイナミクスを調べた。クラスターの計算結果からは、2.5Kですでに、13個のクラスターは融解し、バルク液体と同様の分子拡散を呈していることがわかった。また、クラスターは一般にサイズが大きくなるほど融解しにくくなることや、リチウム原子はクラスターの表面に付着される傾向があることもわかった。また、セントロイドの速度自己相関関数のパワースペクトル(フォノンの状態密度)からは、量子化によってスペクトルが著しくレッド・シフトし、有効ポテンシャルのソフト化に対応していることがわかった。一方、スラブの計算では、はじめにhcp格子のab面を垂直方向に6層積み上げ、xy方向にのみ周期境界条件を課した配置を設定した。スラブの内部のいくつかの水素分子を除いた代わりにリチウム原子を1個ドープした。この欠陥の配置によってリチウム原子が表面に出てくる条件を調べた。その結果、そのためにはリチウム原子から表面に至る径路のパラ水素分子が予め取り除かれていること、さらにスラブ全体が融解していることが必要であることがわかった。さらに融解した層中では分子は2次元的拡散を呈していることも明らかとなった。また、リチウム原子がhcpの各層の三角格子を通過する際にその有効ポテンシャルの著しい低下、すなわちトンネルを伴うことを明らかにした。
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