ビタミンEは、生体内で脂質過酸化ラジカルを消去して、過酸化をできるだけ抑制する作用を担っている。こうしたビタミンEの作用に関連した抗酸化反応、酸化促進反応、再生反応は、本質的にはプロトンもしくは水素原子移動反応である。我々は、こうした反応においてトンネル効果が果たす役割の解明を目的として研究を行ってきた。本年度は特に、ビタミンCやユビキノールによるビタミンEの再生反応に注目した。具体的には、ビタミンCやユビキノールの水酸基の水素を重水素化して、それらが溶液中でビタミンEラジカルのモデルを消去する反応速度やその温度変化をストップトフロー分光法を用いて求めた。実験結果には準古典的な効果では説明しきれない大きな重水素化効果やア-レニウスプロットからのずれが現れ、トンネル効果がこうした再生反応において重要な役割を果たすことが示された。このほかにも、ビタミンEの抗酸化反応の実験結果にトンネル効果が現れるにもかかわらず、その逆反応である酸化促進反応ではトンネル効果が現れない理由についても、分子軌道計算などに基づいて考察した。我々が知る限りにおいて、溶液中、生体中、あるいは生体のモデル中でのビタミンEの反応におけるトンネル効果を研究しているのは、我々のグループのみである。本研究では、従来のビタミンEの反応の研究が注目してこなかったミクロな反応機構や反応のポテンシャル曲面の微視的な解析に光を当てつつある。
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