研究概要 |
地表面での水・熱収支観測方法の確立,簡潔な日蒸発散量推定手法の提案,衛星データを用いた広域蒸発散量の推定法の開発をめざして研究を実施し,以下のような結果が得られた. まず,GAME-TropicsプロジェクトにおけるAWS(Automatic Weather Station)の候補機種,PAMprototypeの雨季の熱帯モンスーン地帯での運用の問題点を抽出するため,タイ国スコタイ市近郊の水田において行われたテスト観測のデータを入手し,それらを解析した.その結果機器の設置や動作に大きな問題はなく,フラックス測定・算定に関し,特に水体の熱貯留の効果が,正味放射量と潜熱フラックスの日変化との間に大きな位相のずれを生じさせることが明らかになり,この熱収支項目の高精度な測定が必要となることが再確認された. 続いて,ルーチン気象観測項目と地温データより,蒸発量の季節変化を簡易に推定する熱収支モデルを開発し,このモデルを用いての蒸発量の季節変化の評価方法を吟味した.この方法は土壌パラメータ・境界条件の設定が容易なこと,必要なパラメータも概略値で良いことに特徴があり,北海道での裸地面の熱収支観測により結果が検証された.熱帯の雨期と乾期が明瞭なタイでの気象観測項目をデータとして用いると,蒸発量は年でバンコクが960mm,チェンマイが610mmと推定された. さらに,灌漑水田などで領域平均化が確認されている1km^2程度を要素として,東日本を対象とする蒸発散量推定を試みた.バルク法とエネルギー収支式を基本にNOAAデータによる地表面情報と,GPV(Grid Point Value)データによる気象値を組み合わせて広域の蒸発散量を求めるものである.地表面での温度分布や放射量の推定精度に不完全さが残り,対象全領域にわたっての十分適切な蒸発散量の推定に至らなかったが,地理条件のより一様な平野部では妥当な値を示すことが知られた.
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